第
25回全国英語教育学会・北九州研究大会 1999年8月18日(水)自由研究発表資料【第
3室】531教室 於・西南女学院短期大学イントネーション指導における談話のイントネーション理論の妥当性
広島大学大学院
大和知史
e-mail address:
kazuhito@ipc.hiroshima-u.ac.jp[
本発表の構成]註
参考文献
0 はじめに(本発表の背景と目的)
発音指導の中でも、イントネーション指導はあまり積極的に推し進められていないのが現状であろう。例えば、そのような状況は、調査研究等(岡崎他
発音指導の中でも、イントネーション指導はあまり積極的に推し進められていないのが現状であろう。例えば、そのような状況は、調査研究等(岡崎他
そこで、本発表の目的を以下のように設定する。
さらに、検討、考察の観点を以下のように設定する。
こうして設定された目的、観点を検討する上で、6つのイントネーション理論の比較考察を行うこととする。
1
イントネーション指導に求められるもの上に述べたように、あまりなされていないというイントネーション指導であるが、どのような指導が求められているのであろうか。
Levis(1999)やCelce-Murcia(1996)によれば、イントネーション指導に関する問題点の内容はAllen(1971)の指摘以来変化していない、と指摘されている。次に、指摘されている問題点を具体的に考察していくこととする。
Allen(1971)、Celce-Murcia et al.(1996)、Levis(1999)の挙げた、イントネーション指導の留意点は、合計して延べ10項目にのぼる。以下にそれらをすべて記す(便宜上、項目には通し番号が付されており、括弧により研究者ごとに括ることにしている)。これら
10の留意点には重複している点が見受けられ、それらをさらにまとめることが可能である。まず、イントネーション理論というよりも、具体的な指導の方法(自然な音声を用いる、など)に言及しているもの(2、6、7、10)はこの場では取り扱わないこととし、残った6点に関しては、「教授可能性(1、8)」、「談話、意図に焦点が当てられている(3、4、9)」、「情報構造(5)」の3つのからそれぞれ分類を行った。これら3つの分類をもとに並べ替えたものが以下のものである。「教授可能性」
1 Direct students' attention to a few major patterns; 8 Make leanerable and generalizable statements about meaning「談話・意図」
3 Distinguish between the intonation of isolated sentences and the intonation of segments in extended discourse;4 Teach students to think in terms of the speakers' intention in any given speech situation. 9 Teach intonation in the context of a communicative purpose
「情報構造」
5 Using the notions of given and new information - or contrast, where relevant - to explain shifting focus in
ongoing discourse(
i.e., the speaker will emphasize contextually salient information and will deemphasize what is given or predictive)これらの項目と、本発表において取り上げるイントネーション理論との適合を記したものが、表
1である(項目はすべて、日本語に訳し「…することができる」という言葉を付している)。表
1. 各観点に関するイントネーション理論の分類|
Brazil 方式 |
Pierrehumbert 方式 |
音調強勢記号方式 |
ピッチ・レベル方式 |
Halliday 方式 |
Bolinger 方式 |
||
|
「教授可能性」 |
2 、3の主たるパターンに注意を向けさせることができる |
○ |
○ |
○ |
|||
|
意味に関して、学習可能であるか、一般化が可能か |
○ |
○ |
|||||
|
「談話・意図」 |
単独の文のイントネーションと談話からの切り取ったイントネーションとの違いに気付かせることができる |
○ |
○ |
||||
|
ある発話の状況における話者の意図の観点から考えさせることができる |
○ |
○ |
|||||
|
「情報構造」 |
新、旧情報の概念に気付かせることができる |
○ |
○ |
○ |
(本論の議論及び
Celce-Murcia et al.(1996)、Allen(1971)、Levis(1999)をもとに発表者が作成)主にイントネーション指導において必要であるとされている要素は、「教授可能性」が十分にあるか、「談話・意図」に焦点が当たっているか、「情報構造」に注目しているか、の
3点であると言える。さらに、これら3点を見てみると、第一点目は、イントネーションに関する記述が体系的であるか否か、第二、第三点は、イントネーション理論自体に関わるもの、すなわちイントネーションをどう捉えるか、であるといえる。今後、その二分類を視点として設定し、イントネーションの記述・表記、イントネーションの捉え方に関して考察していくこととする。2
「教授可能性」 (特に表記法に焦点をあてて)ここでは、イントネーションの記述、特に表記法に焦点を当てて、考察していくこととする。どのイントネーション理論による記述が体系的であり、なおかつ教授可能な体系であるのか、を比較考察していく。主な表記法によって同じ発話の記述を行ったものを表
2に表す。表
2. 各表記法によって記述した"I'll go."| Brazil方式 |
// |
? |
i'll |
GO |
// |
||
|
Pierrehumbert方式 |
I'll |
go. |
|||||
|
H*LL% |
|||||||
|
音調強勢記号方式 |
i'll |
? go |
|||||
|
Halliday方式 |
// |
1 |
i'll |
go |
// |
||
|
ピッチ・レベル方式 |
i'll |
go |
|||||
|
3 |
° 2 |
||||||
|
Bolinger方式 |
g |
||||||
|
i'll |
o |
||||||
|
(Brazil(1997: 172)に掲載の"I'll go."を基に他の表記法で発表者が表記) |
|||||||
以上に見られるように、一見してイントネーションの記述が異なることが分かる。また、発表者が、少数ではあるが教科書を見た限りにおいては、イントネーションに関する表記は統一がとられていなかった
1。以下、上記の表にあるそれぞれのイントネーションの記述に関して、渡辺(以下、上記の表にあるそれぞれのイントネーションの記述に関して、渡辺(1994a)をもとに概観し、比較考察する。2.1 Brazil
方式イントネーションを談話の観点から捉えようとした試みは、
Brazilによってなされた。談話の情報が新しいか既知のものかにより、音調を使い分けるものとする。その際には、下降上昇調、上昇調を言及音調、下降調、上昇下降調を宣言音調とそれぞれ名づけ、情報構造等により使い分ける。また、キーと言う概念を採用しているのが特色となっている。渡辺(1994b)によれば、例外がかなりあるということを理由に、特定の音調と意味を結びつけることの困難さが指摘されている。以下にBrazilによる表記法を記述する。Brazil et al.(1980)、 Brazil(1997)、Brazil(1994)を参照し、イントネーションの記述を概観する。単位としてのトーンユニットから始まり、それを形成する4つの選択肢をそれぞれ説明していく(それぞれ日本語名、英語名、記述の凡例の順で記してある)。
発話の最小単位となり、トーン、キーを含むことができる。トーンのある音節が必要条件となる。
’thought group’と表されることもある(Gilbert 1993; Celce-Murcia, Brinton and Goodwin 1996)。Tone unitは以下のように3つの構造からなっている。(後接分節素) 主調子分節素 (前接分節素)
(
(
以下に例を示す。
//
? he was GOing to GO//ある音節がほかの部分よりも「際立っている」ものを指して卓立と呼び、それぞれのトーンユニット内に存在する
1つもしくは2つの際立った音節を卓立シラブルと呼ぶ。これは主調子分節素の始まりと終わりを決定付ける。例を示すと、Q: What card did you play?
R: //the QUEEN of HEARTS//
(Brazil 1997: 22)ここで注意すべきなのが、アクセントの意味合いについてである。
Brazilはアクセントを語彙レベルにおいての有標、無標の音節を区別する属性の意味において使用している(39)。例えば、語アクセントとして、’OBject’と’obJECT’を区別する際のものをアクセントと言う。ただし、これらアクセントは卓立になりうることにも注意されたい。トーンユニット中の最後の際立った音節を主調子音節(
tonic syllable)といい、主調子音節において最もピッチが変動する。すなわち、トーンユニット内での最も大きなピッチの動きをトーンという(その音節には下線が引かれる、主調子卓立)。トーンには5つのパターンがあり、下降、上昇、上昇下降、下降上昇、平坦とそれぞれ呼ばれる。下降(まれに上昇下降)により表されるものを宣言的音調、下降上昇・上昇により表されるものを指示的音調という。後述するが、参与者の共通基盤(common ground)の存在がBrazilの理論では大きく取り上げられる。共通基盤に関して、Brazilは以下のように述べている。’
It may be helpful to think, in diagrammatic terms, of the speaker seeing his world and the hearer’s as overlapping, and to see him as faced, as he composes, with a moment by moment decision as to whether what he says can be assumed to be shared or not (Brazil et al. 1980: 15).’共通基盤において重なっている部分に言及する際には指示的音調で、重なっていない部分に言及する際には宣言的音調で、相互作用を促進していく(図
1を参照)。図
1 話者と聴者の共通基盤トーンのそれぞれがピッチの動きで表される一方で、相対的なピッチのレベル(いわば始動点の高さ)によって表されるものがキーである。キーは最初の卓立音節において付される。高、中、低の
3つのレベルがある。それらはそれぞれ、対照的、付加的、同一的という意味を持つ。//p he GAMbled// p and //
対照的//p he GAMbled// p and LOST//
付加的//p he GAMbled// p and //
同一的 LOST (Brazil et al. 1980: 65)トーンユニット内の最後の卓立音節におけるピッチレベルを終結と呼ぶ。
トーンユニット内の最後の卓立音節におけるピッチレベルを終結と呼ぶ。
Brazil(1994)のテキスト内では、記述をしているが、教授の対象として特に取扱うことはしない。発話の最後にある音調単位にある終結と、次の音調単位のはじめにあるキーが一致することがある(pitch concord)。例えば、以下のようなやり取りにおいて終結とキーの一致が見られる。A: //p will you //
YES
NOB: //p // //p //
以上をまとめると、以下の表
3のようになる。| 表 3. Brazilのイントネーション記述モデルにおける構成要素 | |||||
|
prominence |
tone |
key |
termination |
||
|
prominent syllable |
p( ? ) |
high |
high |
||
|
non-prominent syllable |
p+( ? ? ) |
mid |
mid |
||
|
r( ? ) |
low |
low |
|||
|
r+( ? ? ) |
|||||
|
level( ? ) |
|||||
2.2 Pierrehumbert
方式Pierrehumbert
の方式は、基本周波数の細かい動きを捉えてそれを単純かつ均整のとれた形式で表記しようとする試みである(Pierrehumbert and Hirschberg 1990においてより整備された)。前述のピッチレベル方式のようにレベルによる記述であり、それらの欠点であった「それぞれのレベル間の連鎖」を高音調、低音調の2種類を基本にすることで解消した形になっている。近年、特にアメリカにおいてはこの考え方に基づくイントネーション理論が盛んになっている(Ladd 1996)。このアプローチにおいては、ピッチ・アクセント、句アクセント、イントネーション句のそれぞれが
compositionalであるとしている点が特徴的である。ピッチ・アクセントには単純音調が2つ、それらの組み合わせが4つの計6つがある。さらに、句アクセントには2種類、境界音調には2種類がある。それらすべての組み合わせにより、イントネーション句の音調曲線が決定されるため、総計22の組み合わせがあることになる(本来24種だが、2つ重複するため22種となる3)。「全体的なピッチの幅と末尾のピッチ降下がイントネーションの全体的解釈において重要な役割を果す(渡辺1994:75)」ため、これら22種の組み合わせが重要になる。この方式は細かいピッチの動きを正確に捉えることができる一方、組み合わせの多さは煩雑になってしまうことは否めない。以下に例を示す。(例
5)The train leaves at seven.
(Pierrehumbert方式)H* H* H*LL%
//
? the TRAIN LEAves at SEven // (Brazil方式)The
? train ? leaves at ? seven. (音調強勢記号方式)2.3
音調強勢記号方式音調強勢記号方式は、そもそも外国の英語学習者にイントネーションを教えるために考案された方式で
Kingdon(1958)、O'Connor and Arnold(1973)らにより、採用、発展された表記法である。ちなみに後者による表記法はThreshold level 1990(米山、松沢(訳)1998)においても採用されている。基本的に両者の表記法は共通点が多く、前者は平坦調を、静的なものとみなして核音調とは認めていない点のみが相違点と言っても良いほどである。この表記方式の利点としては、ピッチ変化の方向と強勢を同時に表記することができ、スペースをあまり取らない、行間に記号を挿入できる、などが挙げられる。欠点としては音調パターンが
10通り以上あり(研究者により差異はあるが)、また、それらの音調パターンの表す意味が、感情に結びついているという点が挙げられ、多く批判されているところである。(例
1)Shall
? we come? // ? shall WE come //I
? think so. // ? ? I THINK so //You should
? answer it. // ? ? you should ANswer it //(
Kingdon方式) (Brazil方式)2.4 Halliday
方式Halliday
方式は5つの単純音調と2つの複合音調からなっており、音調群を区切り、数字によって各音調を示す。特徴として、(1)頭部、前頭部をひとまとめにして前核部としている、(2)リズム脚(foot)単位で音調群を分けている、(3)高上昇の一種として、高下降の直後折れ線的に上昇する鋭角的な下降上昇を認めている、(4)「イントネーションは単に心的態度を表現するための体系とみなされるべきではなく、基本的には時制、数、法と同様文法的な役割を果たすとみなし、口語英語の文法的記述の際に両者は同様の立場で記述がなされなければならないとする(渡辺1994:52)」、の4点が挙げられる。この方式は、多くの音調を認めているためかなり複雑で、しかも音調の種類を番号で音調群の冒頭に記しているため、慣れるのに時間がかかるであろう。さらに
2次音調を加えれば、複雑さが増してしまう、といった欠点が挙げられる。以下に例を示す。(例
2)// 1 wait for / me // //
? wait for ME //// 4 give him a / chance // //
? ? give him a CHANCE //(
Halliday方式) (Brazil方式)2.5
ピッチ・レベル方式ピッチ・レベル方式は、構造主義言語学の影響を色濃く受けており、またアメリカ英語の特性(強勢のあまりない部分でのピッチの動きは比較的少ない)を記述するに適した表記法であると言われている。この方式によるものでは、
Trager-Smith方式、Pike方式が有名である。まず、前者のTrager-Smith方式では、イントネーションと強勢を切り離して考えており、イントネーションを音素としてのピッチ・レベルの連続(もしくは連接)とみなす。Pikeの方式ではピッチ・レベルの表示がTrager-Smithと順序が逆であることを除けば、基本的には変わらない。ただし、音調群に対する考え方などの、若干の相違は勿論ある。この方式に対する批判は多く、先のHalliday方式同様、番号による記述であるので慣れるのに時間がかかる、また4つのピッチ・レベルを設定することにより、/123/と/234/の区別がつけられない、といった問題点があるとの指摘がなされている。以下に例を示す。(例
3)He said so //
? he SAID so //You had better do it. //
? you had BETter do it //(
Pike方式) (Brazil方式)2.6 Bolinger
方式一方、ピッチ・レベルという考え方に反対していたのが、
Bolingerである。彼によれば、イントネーションの性格はレベルでは表記し難く、むしろピッチの形状(configuration of pitches)の方により関係するとみている。3つの音調線を設定し、音調曲線(contour)を構成するには最低一つの音調線(a profile)が必要であるとしている。ところがこの表記法は非常に細かいため、使いこなすには訓練が必要となるといったことから、渡辺はこの方式を以下のように評している。「イントネーション教授用に工夫された表記法というより、科学的な表記法という印象が強い(渡辺1994a:69)。」また、最も重要な問題点として、ピッチによって強勢が決定されてしまうため、そのほかの要素がほとんど無視されてしまう、ということが指摘されている(渡辺1994a)。また、この方式は例を見れば分かるが、視覚的に魅力的ではあるが、同時に印刷上の問題点を抱えている。以下に例を示す。(例
4)Jo
It's //
? it's JOhn //hn
(
Bolinger方式) (Brazil方式)2.7
表記法のまとめ以上、様々なイントネーションに関する表記法を概観してきた。ここでは、それらを総合して、比較検討することとする(表
2参照)。その際、必然的に教育場面での使用にたえうる表記法を考慮することになり、教師や学習者による使用を考えて、簡潔さを重視してしかるべきであろう。Brazil
方式によれば、矢印、大文字、文字の位置(optional)などが主な表記方法である。一方、Pierrehumbert方式では、文章の下に、H、L等の記号を付していく方式であり、一見しての理解が困難ではないであろうか。矢印などの視覚的効果を考慮にいれ、さらに同一線上であることに鑑みても、Brazil方式の方が理解しやすいといえるのではないであろうか。では、その他の同一線上表記であるとか、矢印、もしくは丸や段を違えるなどの視覚的効果を持った方式はどうであろうか。例えば、Bolinger方式などはどうであろうか。この方式は確かに文全体における曲線の流れが一見して理解できるものである。しかしながら、上にも挙げられていたように、その曲線からは強勢等の情報は一切見受けられず、さらには表記の印刷上の問題という点も忘れてはならない。こうした、表記上の実利的な面を考慮しても、Brazil方式が妥当であると言えるのではなかろうか。イントネーションの構成要素等の記述に関して、
Brazil方式の場合、「イントネーションの選択肢が有限個である(Goh 1997)」。トーンに関して言えば、基本的なものは5つである。この点に関して、Alt(1984)は以下のように述べている。‘
The case is strongly made in DILT[Discourse Intonation in Language Teaching] that the finite nature of the model’s meaning choices makes it learnable; the learner can apply a set number of rules in order both to comprehend meanings in discourse and to assign appropriate intonations to his or her own utterance (63).’他のイントネーション理論、例えば
O’Conner & Arnold(1973)は10のトーンを提案しており、さらにイントネーションの捉え方が態度、感情であるためそれぞれのトーンに対して事実上無限個に近い態度、感情があてはまる。これでは一つ一つ学習していくのは困難を極めるであろう。例えば、あるトーンが’grudgingly’、もう一方が’reluctant’と表されていても、何が違うのか分からない、といったことに陥ることがある。その他の理論では、Pierrehumbert and Hirschberg(1990)が上記のように22種類ものトーンパターンを提案しており、あまりに数が多く、学習を考えると無理があると思われる。3
「談話・意図」、「情報構造」(イントネーションの捉え方)ここでは、それぞれのイントネーション理論において、イントネーションがどのように捉えられているのか、を比較考察していくこととする。特に、表
1において「談話・意図」に焦点を当てていた、Brazil方式とPierrehumbert方式の2つに注目し、考察していくこととする。3.1 Brazil
方式forms of intonation
まず
Brazilの理論に関して、そもそもBrazilのイントネーション理論はSinclair and Coulthardによる談話分析の枠組みに合わせてHallidayのオリジナル・モデルを修正、補強を行い、後にBrazil et al(1980)やBrazil(1997)のようにオリジナルから大きく離れ、文法的な節に記述を結びつけない、という結果となった。多くの研究者が文を基本単位としてイントネーションを研究しているのに対し、彼らはより大きな談話を単位としている点が「談話のイントネーション」と呼ばれる所以である。さらに、イントネーションの捉え方として、ピッチの高低、及び流れをいかに捉えているかという点においても言及する。
Brazilは先に述べたように、大きく離れたとはいえHallidayの記述方式から派生しているため、トーンの選択という観点からイントネーションを捉えており、Cruttenden(1997)によるとtwo-tone approachと呼ばれ(proclaiming tone、referring toneの2種類で表されるため)、矢印等で表される。functions of intonation
ここで、
Brazilがイントネーションの記述をいかなるものとして理解しているかを具体的に理解するため、以下の引用文を参照していただきたい。We
(Brazil et al. 1980) see the description of intonation as one aspect of the description of interaction and argue that intonation choices carry information about the structure of the interaction, the relationship between and the discourse function of individual utterances, the interactional ‘given-ness’ and ‘new-ness’ of information and the state of convergence and divergence of the participants(11).(括弧補足及び下線は発表者による)「相互のやり取り」においては、
’common ground’という共通基盤の概念が用いられ、話者と聴者との間の世界観、情報の重なりを表し、その中で話し手は何が「新情報」で何が「旧情報」なのかを理解し、瞬間瞬間に自分が言うことが聞き手に共有されているとみなすべきか否かの決定を迫られているのである(吉村、貫井、鎌田(訳)1999)。このように、Brazilのイントネーションに対する見方は、文法的でも、感情的なものでもなく、相互のやり取りにおける意味に基づいて選択される数の限られた選択肢に焦点が置かれている。この理論に対する問題点として、二分法的な捉え方は簡潔ではあるが、逆にその簡潔さゆえに複雑なイントネーションという事象を捉えきれていないという批判があることが挙げられる(
Couper-Kuhlen 1986:134-135)。例えば、情報構造に関して、ブラジルのイントネーション理論によれば、新旧情報を決定するのは宣言的音調、指示的音調によるという(前者が新情報を示し、後者が旧情報を示す)。しかしながら、次の英文には下降上昇調が使用されているにもかかわらず(旧情報であるはず)、新情報を示し、さらに他の意味合いも暗示している。A: did you feed the animals?
B:
? ? I fed the CAT上の例においては、他の動物に関しては知らないという負の暗示があり、ブラジルのイントネーション理論では説明ができないとしている。このような事例は、談話に焦点を置いていることにより、意味表象が
"post hoc"である、つまり後付けになっていることから起こるものである(Cruttenden 1997)。3.2 Pierrehumbert
方式forms of intonation
ここで、「談話」や「話者の意図」に焦点を当てている理論として、
Pierrehumbert and Hirschberg(1990)を取り上げることとする。Pierrehumbertの方式は、ピッチ・レベル方式(後述する)による4段階レベルの欠点(絶対的高低レベルを設定してしまう)をカバーするように高音調、低音調の二分法を用いて記述されている。上にも述べているように1つのイントネーション句に、ピッチ・アクセント、句アクセント、境界音調という3つの構成要素があり、それぞれに高・低、またはその組み合わせが付されるため、基本周波数を可能な限り忠実に再現することができる。functions of intonation
談話における情報の流れをいかに認識するかによって、イントネーションの解釈が決定されると述べており、音韻論的意味論といった観点からイントネーションを捉えている。以下の記述を参照していただきたい。
"We propose that S
(speaker) chooses an intonational contour to convey relationships between (the propositional content of) the current utterance and previous and subsequent utterances - and between (the propositional content of) the current utterance and beliefs H(hearer) believes to be mutually held. These relationships are conveyed compositionally via selection of pitch accent, phrase accent, and boundary tone (Pierrehumbert and Hirschberg 1990:308; S、Hの補足及び下線部は発表者による)."上記の引用文から、多分に意味論的であることがうかがえ(
e.g. propositional content)、また、興味深いことに、話者と聴者の間の共通理解基盤に言及している点はブラジルと共通であると言える。イントネーションが何をするのか、という点において両者はほぼ同一見解であると言ってよいであろう。Pierrehumbert and Hirschberg
(1990)によるイントネーションへのアプローチは、構成要素の各々がそれぞれに発話の意味解釈に寄与していくとする、"compositional approach"と呼ばれている。構成要素とは、先に述べたピッチ・アクセント、句アクセント、境界音調の3つからなっている(渡辺1994)。ピッチ・アクセントは語彙項目に卓立を与え、referents、modifiers、predicatesの関係等を表し、ピッチ・アクセントと句の終末を示す句アクセントは、中間的句における関連の度合いを表す。そして、イントネーション句の境界を明確にする境界音調は、イントネーション句間の関係を示す(Cruttenden 1997)。しかしながら、分析の際にはそれらを構築されたものを再分割するため、"decompositional approach"とも称されている(図2を参照)。decomposition composition
図
2 Pierrehumbert方式により意味を分析する際の過程Cruttenden
(1997)によって、このアプローチの問題点が6点挙げられており、以下にそれらの中から代表的な3つを記す4。Cruttenden
(1997)はこれらの問題等の総括として、イントネーション曲線を正確な静的トーンによって分割することは、発話の統合を簡略化することにつながるが、意味は曲線全体に記す方がより簡易であるだろう、と述べている。3.3
捉え方のまとめここで上記に挙げた
2つのイントネーション理論におけるイントネーションの捉え方についての比較考察を行うこととする。それらに共通しているのはイントネーションの機能的側面に関する理解であり、共にイントネーションを談話における話者と聴者の共通基盤を基に意味を構築していくものとしている。近年のコミュニカティヴアプローチの影響下で、発音指導におけるトップダウンアプローチは、超分節音素のコミュニケーション上における役割に着目している(Pennington and Richards 1986)ため、両者の唱える共通基盤の考え方はトップダウンアプローチに合致していると言えそうである。また、Morley(1998)によれば、6つ挙げられた発音指導のポイントの1つとして、発音教材や活動が、実際の言語使用状況を反映したものであるべきである、と述べている。この点においても、談話のイントネーションの捉え方は重要になってくるのではなかろうか。これら
2つは、共通見解を持っていながらも、Brazilはイントネーションをトーンの選択と捉え、一方Pierrehumbertはピッチ・レベルで捉えているという点で異なる。前者はトーンの選択により、イントネーションの意味を規定していくのに対し(intonation choices carry information)、後者は構成要素の1つ1つがそれぞれに意味の構築に貢献していく、compositional approachである(intonational contour shows relationship)、という点に相違が見られる。ただし、後者に関してはその意味の規定に無理のあることがあると(上記に述べたように)指摘されている。また、両者ともに記述が後付けに陥ってしまう点については、欠点として挙げることができる。しかしながら、この点に関しては、イントネーション理論一般について言えることであると考えられるため、欠点であると一概には言うことはできないであろう。Pierrehumbert
方式はToBIという記述方式や現代のイントネーション音韻論において盛んに議論がなされており、音韻論における貢献は高いと考えられる。しかしながら、上で述べたように、compositional approachは実際のところはdecompositional approachであるため、構成要素それぞれが意味的に貢献するとはいえ、全体の意味構築には手間が掛かることは否めないであろう。また、教育的にみても、曲線を分割し、再構築していく方法は、渡辺(1995)、伊達(1998)らの勧める韻律分析などを考慮に入れると、教師の側に多大な困難を伴わせることになるであろう。一方、Brazilの表記においては、トーンに意味が付加されているため(宣言的音調、指示的音調)、選択したトーンの持つ意味が大きく言えば発話の意味に貢献するのである。これらを考慮に入れると、Brazilによるイントネーションの捉え方の方が、Pierrehumbert方式より簡潔であり、使いやすいものなのではないであろうか。4
まとめ以上、イントネーション指導の問題点の指摘から始まり、表記法、理論的背景の考察を行うことで、どのようなイントネーション理論を教育的に応用するべきかを考えてきた。ここで、今まで考察を行った点を振り返り、まとめとしたい。
第一に、イントネーションの体系が学習者にとって学習可能なものであるかどうか、すなわち表記法に関してまとめることとする。
Brazilのイントネーション理論では5つのトーンからなっており、キーや終結を含めると多少多くなり17となるが、それらは学習者に求められてはいない範囲であるため(Brazil et al. 1980)、基本的には5つと考えてよいであろう。表記法は異なるが(音調強勢記号方式)、渡辺(1994b: 125-126)では教育に用いるものとしてほぼ同じトーン(渡辺は平坦調を含めず、アメリカ英語用に低上昇調を含めている)を選択し、提案している。ここからも、教育的にイントネーションを用いる際には5つ程度の選択肢が適当であるということが言えよう。さらに、
Brazilのイントネーションの表記において、宣言的音調、指示的音調の表記をp、p+、r、r+とは表さず、矢印による表記にすれば(?・?・??・??・?)、視覚に訴えることもでき、より理解しやすくなることであろう。この方法は、Brazilのイントネーション理論に準拠している発音テキストにおいて適応されている(Bradford 1988; Brazil 1994; Hewings 1993)。その他の卓立やキーなどの表記については全て矢印であり、教育現場に十分耐えうる表記法であると言えそうである。一方で、多くの研究者が様々な表記を行っており、曲線を描いたり、活字を曲線状に付したりするものが分かりやすいのではないか、と考えられるが、表記上の手間が掛かることと、特に後者においてはリズムを表すことができないという欠点がある(今井 1989)。第二点として、「談話」、「話者の意図」といった観点に立脚している理論であるのかどうかという点が挙げられる。「談話」の側面を考慮している理論、体系は表1の通り
BrazilとPierrehumbertであり、その他の多くの理論は独立した文に焦点を当てて考察を行っている。なぜこうしたイントネーションの意味的貢献に留意せねばならないのか。それは、特にLevis(1999)の原理に見られる、「実際の使用(もしくはそれに近いもの)」の促進の影響ではないであろうか(本発表においては考察の観点に含めなかった)。この点に関しては、トップダウンアプローチによる超分節音素のコミュニケーション上の貢献、実際の発話場面を重視した活動や教材を促す(Morley 1998)などの発音指導自体の動向、ひいてはコミュニカティヴ・アプローチと深い関係にある。第三点目として、「情報構造」を意識させることを留意すべきである、という点が挙げられている。これは先の第二点目の「談話」と深い関係にあることは容易に見当がつく。そうすれば、共通基盤(
common ground)の概念を採用しているBrazil、mutual beliefを話者、聴者で調整し合っているというPierrehumbertの2つが適していると言える。以上のように、様々なイントネーション理論(もしくは研究)において、言語学的記述を主眼としたものがほとんどの中、
Brazilのイントネーション理論は、理論的に現在のコミュニケーション重視の、もしくは談話に着目した指導に適しており、表記法に関しても比較的簡便で使い易いと言える。また、教育面においても、長年指摘されてきた問題点を解消しうるのではないであろうか。以上をふまえて、Brazilのイントネーション理論は、イントネーション指導に利用するに十分に耐えうる理論的枠組みであると結論づけられる。註
以下に、少数ではあるが、発表者が見た教科書におけるイントネーションの記述を挙げる。
(高)
Lighthouse English Course. 研究社出版.Bolinger
方式を採用(文字を段階的に表示)(高)
New Atlas English CourseU. 三友社出版.矢印を文の後ろに付す。話し手の態度、心の動きを伝える、と説明。
(高)
Royal English Communication B. 旺文社.ピッチ・レベル方式(特に段階的直線による表記を採用)「上昇調」、「下降調」の用語導入
(高)
SunshineT/U. 開隆堂イントネーションの記述自体が無い。子音、母音、強勢、つながりなどの記述に留まる。
(中)
New Horizon1/2/3. 東京書籍.1
においては、「リズム」として導入し、活字をボールドにしたり、矢印を文末に付している。2
においては、「イントネーション」と称していながら、活字を大きく、ボールドにしているのみである。3
においては、2と同様の表記に加え、「低い調子で」と説明書きが加えられている。数は少ないが、以上のように教科書におけるイントネーションの記述は統一見解に基づいておらず、中学校用教科書には記述自体が無いというものも見受けられた。
(渡辺
1994a: 77)(1) As already noted earlier in this section, it is not clear what the function of the phrase accents is in cases where they are followed by boundary tones.
(
2) The 'canonical' pattern for yes/no interrogatives involves an H% boundary tone; but how are those cases in which a yes/no interrogative has a L% boundary tone(which are actually the norm in certain types of interaction) accounted for? Is it claimed that there is no intonational marking of interrogation in such cases?
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